内容通りに実行されない公正証書遺言

公正証書遺言とは、適切な内容で作られるため、遺言書自体が無効になることはありません。しかし、そんな公正証書遺言でも、その通りに実行されないことがあります。
それはどんな場合でしょうか?

内容に納得がいかない相続人たち

いくら法的に有効な内容であっても、相続人たちにも感情があります。

「A子は留学の費用を出してもらったんだから・・・」
「B男は住宅の資金を出してもらったんだから・・・」
「一番、介護してたのは私なのに・・・」

こんな感情が渦巻いていることは、ぜんぜん珍しいことではありません。

遺言の内容に納得がいかない相続人たちが全員で意見が一致すると、遺産分割協議を行って遺言とは違う内容の分割ができてしまうことがあります。
全員が納得がいかない相続は誰のためにもなりませんし、また、遺言の通りに実行することで税務上で不利になったりすることがある場合は、遺言があった場合でも遺産分割協議をする意義があるといえます。

遺言と異なる遺産分割協議をする条件

相続の方法を定める行為の効力には序列があり、以下のようになっています。

遺言>遺産分割協議>法定相続

当然、遺言書の効力が一番強力ですので、その内容を覆すには次のようなハードルがあります。

①遺言執行者の同意

遺言書には通常、遺言執行者が定められています。この遺言執行者は、私たち行政書士のほか、司法書士、弁護士などの専門家のほか、相続人の中の一人が指定されている場合もあります。この遺言執行者の同意がなければ、遺言と異なる分割協議をすることはできません。

ただ、遺言執行者はあくまで相続人のために執行業務を行うのであって、相続人全員が納得していない遺言書を何がなんでもそのまま実行するようなことはしないでしょう。

②遺贈する旨がない

相続人以外の人に財産を残すことを「遺贈」(いぞう)と呼び、その財産を受け取る人のことを「受遺者」(じゅいしゃ)といいます。
例えば、「自動車は世話になった友人Aに遺贈する」という内容の遺言が、これにあたるわけですが、相続人以外の人が登場する場合は、その受遺者も遺産分割協議に含めなければなりません。
受遺者は相続人ではありませんが、遺言書の効力よって遺産を受け取る権利を得ている人ですから、その権利を相続人が一方的に取り上げることはできないからです。

もちろん、受遺者が「遺贈を放棄する」と言ってくれれば問題はありませんが、可能性は低いといえます。

③分割協議が禁止されていない

遺言書に「遺産分割協議を禁止する」という文言がある場合、遺産分割協議は認められません。財産の所有者の意思ですので、残念ながらこれを合法的に覆すことは難しいでしょう。

逆に言えば遺言者は、この文言を記載しておけば遺言と異なる分割が行われることはないのですが、相続人の不満を置き去りにしてまで遺言の内容を貫き通したい、というのであれば、それなりの理由が必要でしょう。事務的に記載しても相続人の感情を逆撫ですることになってしまいます。
付言事項によって、切実な理由を添えるといいかもしれません。

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